馬本を読む

競馬に関する本を紹介するブログの予定です。マイナーなノンフィクション中心、馬券本は基本読まない。

旋丸巴『ロンドンの馬・パリの馬 海外阿房競馬』(中央公論社)1995年

 インターネット環境の発展で一昔前よりぐっと距離は縮まったものの、それでも普段はあまり馴染みのない海外競馬。自分は、そうした海外競馬をレポートしてくれる旅行記の類が好きで、本書もそうした一冊。1991年『ハネムーンは巴里の競馬場』(ミデアム出版社)の改題・文庫化。

 この本では、1984年から1990年までの間に、タイトルにもあるフランスのパリとイギリスのロンドン、加えて香港と韓国、そしてオーストラリアを訪問している。この本が目を引いたのは、韓国競馬を取り上げている点だった。パート1国でないとか、日韓関係のもつれだとか色々あるんだろうが、現在でも日本において韓国競馬は馴染みが薄く、ましてや著者が訪れた1987年8月は、まだソウル競馬場が出来る前で、社会的には全斗煥政権末期のごたついている時期。この時期の韓国競馬レポートとして読むのを楽しみにしていた。

 読了後の感想としては、軽すぎて正直期待外れだった。そもそも副題に「阿房競馬」などと書かれている本に本格的な解説を求めてはいないし、なんなら海外旅行記として読む分には(時代もあってか軽薄な文体が多少鼻につくが)それなりに楽しく読めたと思う。ただ、自分はその国の競馬事情にもう少し突っ込んだ内容を期待していたので、関係ない旅の笑い話があまりに多いのは辟易した。そして、一番期待していた韓国競馬の章だが、なんと滞在中に開催されていなかったため、肝心の競馬は見れなかったのだという。これにはずっこけた。勿論、当時は韓国競馬の情報なんて今よりずっと入手しづらかっただろうとは思うし、その上で貴重な当時の韓国競馬事情も記されているが、レース描写の無い競馬エッセイというのはやはりいただけない。そもそも一国での滞在期間が短すぎる感は否めない。執筆当時は出版社勤めだったからなかなかまとまった時間が取れなかったのだろうが、後書きにアイルランドで一か月競馬旅行をしていたという旨のことがさらっと書いてあり、むしろそれで一冊出してくれと思ってしまう。

 とまあ、長々と文句を書いたが、1980年代から1990年代の日本人旅行者から見た海外競馬の空気感を味わえると考えれば、決して悪い本ではないと思う。馬と人とが自然に交わるパリやロンドンの競馬、喧騒と熱狂の香港競馬、発展途上の韓国競馬業界、のどかなオーストラリア競馬…日本競馬との比較もあって、この時代を知らないだけになかなか面白い。ルポルタージュでも事典でもなく、あくまでエッセイであると理解して臨むべきだった。

 なお、著者の施丸巴は後に『馬映画100選』で2004年JRA馬事文化賞を受賞している。そちらは未読だが、映画は好きなので機会があれば読んでみたい。