馬本を読む

競馬に関する本を紹介するブログの予定です。マイナーなノンフィクション中心、馬券本は基本読まない。

柴田哲孝『たった一瞬の栄光』(祥伝社)1999年

 競馬を始めてから一番最初に読んだ競馬関係のノンフィクション。著者の柴田哲孝について、下山事件のノンフィクションや何やら小説を書いているのは知っていたが、競馬関連のノンフィクションも多数書いていたとは知らなかった。

 本文は全5章で、1章につき3頭の馬を、それぞれ20から30頁程度で取り上げている。「"勝てなかった馬たち"に焦点を当てた」という紹介文通り、決して華やかとは言えない経歴の競走馬が多い。自分が世代でないというのもあるだろうが、半数ほどはその名前すら知らなかった。しかし、G1を何勝もしているような名馬だけにドラマがあるわけではないことを、この本は限られた紙幅の中で教えてくれる。もっとも、どの馬も一度は重賞勝ちしているし、G1を複数回制しているメジロパーマーアブクマポーロも掲載されているので、全く無名の馬ばかりというわけではないだろうが。あるいは、馬よりその周囲の人間、騎手や調教師、厩務員などのドラマとして読むのもいいかもしれない。スターとは言えないような地味な騎手や調教師、なかなか表に出ない厩務員など、あまり語る場の無い人々の声を聞くことが出来る。

 個人的にこの本で一番印象に残った馬は、地方所属でありながら1985年のジャパンカップシンボリルドルフに次ぐ2着となったロッキータイガーだ。現在となってはこの馬の偉業は、本書でも出てくる1999年フェブラリーステークス1着のメイセイオペラや、2004年ジャパンカップ2着で後に海外芝G1も勝ったコスモバルクなどの陰にすっかり隠れてしまった印象だが、それらの進む道を切り開いた先駆者としてこの馬を記憶したいと思わされた。

 知られざる…というほどでもないが、決してアイドルホースとは言えない馬たちを知るのには良い1冊でおすすめ。ただ、1999年出版なので、当時まだ現役の馬もいるなど内容的には不足した部分もあるのに注意。